「給与計算を外注したいが、いくらかかるのか見当がつかない」。従業員20〜100名規模の企業で、経理や総務の担当者がこの疑問にぶつかるのは珍しくありません。給与計算は毎月必ず発生し、法改正への対応や年末調整のたびに負荷が跳ね上がる業務です。にもかかわらず、外注費用の相場観を持っている担当者はごく少数です。
この記事では、給与計算の外注費用を従業員規模別・依頼先タイプ別に整理し、「自社で内製するのと外注するのと、どちらが得か」を損益分岐シミュレーションで定量的に示します。
給与計算の外注にかかる費用相場【従業員規模別】
給与計算アウトソーシング市場は2024年度で約1,500億円、2029年度には1,880億円に達する見込みです(ITR Market View:人事・給与・就業管理市場2026より、CAGR 4.6%)。中小企業の人手不足を背景に、外注へのシフトが加速しています。
外注費用は従業員数に比例して上がりますが、「基本料金+従量単価」の二層構造が一般的です。以下に規模別の相場をまとめます。
従業員10名以下の相場(月額5,000〜20,000円)
小規模企業では、社労士や税理士の顧問契約に給与計算を含めるケースが多くなります。基本料金が5,000〜10,000円、1名あたりの従量単価が500〜1,500円が目安です。10名であれば月額10,000〜20,000円の範囲に収まります。
「年末調整だけ外注したい」といったスポット利用も可能で、その場合は1名あたり2,000〜5,000円が相場です。
従業員11〜50名の相場(月額20,000〜50,000円)
基本料金が10,000〜25,000円、従量単価が400〜850円程度です。30名規模なら月額22,000〜50,000円がボリュームゾーンになります。
この規模になると、社労士の顧問料に給与計算を上乗せするか、給与計算代行の専門会社に切り出すかの判断が必要です。代行会社の方が給与計算に特化している分、従量単価は安くなる傾向があります。
従業員51〜100名の相場(月額50,000〜100,000円)
基本料金が20,000〜45,000円、従量単価が350〜600円程度です。100名規模では月額55,000〜100,000円が目安です。
この規模から社会保険の手続き(入退社・算定基礎届・月額変更届)や住民税の特別徴収更新が本格的な業務量になるため、給与計算と社保手続きをセットで外注するケースが増えます。セットにすると月額80,000〜150,000円程度です。
100名超の大企業の相場と料金体系の変化
従業員100名を超えると、基本料金が120,000円以上になり、従量単価の個別見積が一般的になります。さらに、「フルアウトソーシング」(給与計算・社保・年末調整・住民税・振込まで一括)と「システム一体型」(HRシステム導入+運用代行)の2方式に分かれます。
フルアウトソーシングは月額200,000〜数十万円、システム一体型は初期費用が100〜300万円かかる代わりに月額のランニングコストを抑えられる設計です。
| 従業員数 | 月額費用の目安 | 年末調整オプション |
|---|---|---|
| 10名以下 | 5,000〜20,000円 | +20,000〜50,000円 |
| 11〜30名 | 20,000〜35,000円 | +50,000〜100,000円 |
| 31〜50名 | 35,000〜50,000円 | +80,000〜150,000円 |
| 51〜100名 | 50,000〜100,000円 | +100,000〜200,000円 |
| 100名超 | 120,000円〜 | 個別見積 |
外注先タイプ別の料金比較(社労士・税理士・代行会社・BPO)
依頼先によって料金体系と対応範囲が大きく異なります。競合の多くは社労士・税理士・代行会社の3択で論じていますが、ここでは「データ入力特化BPO」を第4の選択肢として加えます。
社会保険労務士に依頼する場合の料金と特徴
社労士の最大の強みは、社会保険の届出や労務相談といった独占業務に対応できる点です。給与計算と社保手続きをワンストップで任せられるため、「給与のことだけでなく労務全般を相談したい」という企業に向いています。
- 基本料金: 月額10,000〜30,000円
- 従量単価: 500〜1,500円/名
- 年末調整: 別料金(1名2,000〜5,000円が相場)
- 得意領域: 社会保険手続き、就業規則整備、労務トラブル対応
注意点として、社労士事務所の規模によって処理キャパシティに差があります。個人事務所では50名以上の給与計算に対応できないケースもあるため、事前に確認してください。
税理士に依頼する場合の料金と独占業務の注意点
税理士に給与計算を依頼する企業も一定数あります。月次の記帳代行や確定申告と一緒に給与計算を引き受けるパターンです。
- 初期費用: 1,000〜2,000円/名
- 月額費用: 1,000〜2,000円/名
- 注意点: 社会保険の届出は税理士の独占業務ではないため、対応範囲が「計算まで」に限定される場合がある
顧問契約に含まれる形で給与計算を引き受ける税理士も多く、「すでに顧問税理士がいる」なら追加コストが小さい可能性があります。ただし、従業員30名を超えると税理士事務所の処理能力を超えることがあるため、専門の代行会社への移行を検討するタイミングです。
給与計算代行会社(フルアウトソーシング)
給与計算を主力事業とする専門会社に委託する方法です。大量処理に最適化されたオペレーション体制を持ち、法改正への対応スピードが速いのが特徴です。
- 基本料金: 月額10,000〜50,000円
- 従量単価: 350〜850円/名
- 対応範囲: 給与計算・賞与・社保・年末調整・住民税・振込データ作成まで対応可能
- 強み: 複数の会計ソフト(freee・マネーフォワード・弥生・奉行等)への対応実績が豊富
50名以上の企業で「給与計算の丸投げ」を求めるなら、代行会社が費用対効果に優れた選択肢です。ただし初期設定に1〜2ヶ月かかることが多く、切替時のスケジュールには余裕を持つ必要があります。
データ入力特化BPO(部分外注という第4の選択肢)
「給与計算の全工程を外注するのは不安だが、勤怠データの集計・入力だけでも手放したい」。そんな企業に向いているのが、データ入力に特化したBPOサービスです。
- 費用相場: 1件あたり15〜50円(入力項目数による)
- 対応範囲: 勤怠データの整理・集計、給与ソフトへのCSV納品
- 強み: freee・マネーフォワード・弥生などの会計ソフト対応CSVで納品されるため、インポートするだけで計算工程に進める
フルアウトソーシングと異なり、「入力・チェックはBPO、計算・支払は社内」というハイブリッド運用が可能です。外注の第一歩として最もリスクが小さく、1業務から始める部分外注の進め方は経理BPOでも同様に有効です。
| 依頼先 | 月額目安(50名) | 社保対応 | 最適規模 |
|---|---|---|---|
| 社労士 | 35,000〜75,000円 | 対応可 | 10〜50名 |
| 税理士 | 50,000〜100,000円 | 限定的 | 10〜30名 |
| 代行会社 | 30,000〜60,000円 | 対応可 | 30名〜 |
| データ入力BPO | 10,000〜30,000円 | 非対応 | 問わない |
給与計算を外注する範囲の決め方
外注で失敗する企業の多くは、「何を外注し、何を社内に残すか」の線引きを曖昧にしたまま契約しています。ここでは、外注範囲を決めるためのフレームワークを整理します。
外注できる6つの業務
マネーフォワードの分類を参考にすると、給与計算の外注対象は以下の6業務です。
- 月次給与計算: 勤怠データの集計、各種手当・控除の計算、給与明細の作成
- 賞与計算: 支給額の計算、源泉徴収税額の算出
- 社会保険手続き: 入退社手続き、算定基礎届、月額変更届、育休関連届出
- 年末調整: 扶養控除等申告書の回収・確認、過不足税額の計算、源泉徴収票の発行
- 住民税の特別徴収: 特別徴収税額通知の処理、異動届出書の作成
- 振込データの作成: 全銀フォーマットでの振込データ出力
すべてを一括で外注する必要はありません。まずは月次給与計算だけ外注し、負荷の高い年末調整を2年目から追加する、といった段階的なアプローチが現実的です。
社内に残すべき業務
一方、以下の業務は外注には向きません。
- 人事評価と連動する昇給・減給の決定: 経営判断そのもの
- 機密性の高い役員報酬の計算: 情報漏洩リスクの観点から社内完結が望ましい
- 勤怠管理のルール策定・運用: 自社の就業規則に基づく判断が必要
段階的に外注範囲を広げる「スモールスタート」の進め方
外注範囲の決定に迷ったら、以下の3ステップで進めてください。
Step 1: 月次給与計算の「データ入力・チェック」だけを外注する(最小範囲) Step 2: 3ヶ月運用して品質とコミュニケーションを評価する Step 3: 問題がなければ、賞与計算・年末調整に範囲を広げる
段階的に広げることで、外注先の品質を確認しながらリスクをコントロールできます。経理BPOの世界でも1業務だけの部分外注が定着しつつあるのは、まさにこの「スモールスタート」の有効性を裏付けています。
内製 vs 外注の損益分岐シミュレーション
「外注の相場はわかったが、結局うちの場合はどちらが得なのか」。この問いに答えるには、内製コストを正確に把握する必要があります。
内製コストの計算式
給与計算を社内で行う場合のコストは、担当者の給与だけでは測れません。以下の4要素を合計します。
1. 人件費(直接): 担当者の年収(仮に350万円) 2. 社会保険料の会社負担: 年収の約15%(52.5万円) 3. 間接費: オフィススペース、PC、給与ソフトライセンス、研修費など(年間50〜80万円) 4. リスクコスト: 担当者の退職・休職時の引継ぎ・採用コスト(年間30〜50万円を見込む)
合計すると、年収350万円の給与計算担当者1名の実質コストは年間480〜530万円になります。
もちろん、給与計算専任で雇うケースは少なく、実際には経理業務全般との兼務が一般的です。その場合、給与計算に費やす時間の割合(たとえば30%)を掛けて算出します。兼務で30%なら年間144〜159万円が給与計算の内製コストです。
外注コストの計算式
外注コストは以下の3要素で構成されます。
1. 基本料金: 月額10,000〜30,000円(年間120,000〜360,000円) 2. 従量料金: 350〜850円/名 x 従業員数 x 12ヶ月 3. オプション: 年末調整、賞与計算、住民税更新などの追加料金
50名規模で給与計算のみを外注した場合、年間コストは月額4〜6万円 x 12ヶ月 = 年間48〜72万円です。
損益分岐点の目安
上記の比較は「専任担当者1名 vs 外注」の極端なケースですが、兼務の場合でも以下の目安が参考になります。
| 従業員数 | 内製コスト(兼務30%想定) | 外注コスト(給与計算のみ) | 差額 |
|---|---|---|---|
| 20名 | 年間144〜159万円 | 年間24〜36万円 | 108〜135万円 |
| 50名 | 年間144〜159万円 | 年間48〜72万円 | 72〜111万円 |
| 100名 | 年間192〜212万円(兼務40%) | 年間72〜120万円 | 72〜140万円 |
兼務担当者の時間を30%解放できるとすると、月間50時間程度が本来の経理業務に戻ります。この時間で月次決算の早期化や資金繰り分析に取り組めるなら、金額差以上の効果が見込めます。
経理の人件費とBPO外注費の損益分岐シミュレーションでは、記帳代行を含めた経理業務全体の比較を行っていますので、あわせて参照してください。
給与計算の外注で失敗しないための5つのチェックポイント
費用相場と損益分岐がわかっても、外注先の選定を誤ると「安かろう悪かろう」になりかねません。契約前に確認すべき5つのポイントを整理します。
1. 業務範囲を文書化する
外注で最も多いトラブルは「ここまでやってもらえると思っていた」という認識のずれです。SLA(サービスレベルアグリーメント)と業務分担表を契約前に作成し、以下の項目を明文化してください。
- 毎月の納品物(給与明細、賃金台帳、仕訳データなど)
- 締日と納品日のスケジュール
- 修正依頼の対応回数と追加料金の有無
- 担当者の連絡手段(メール・チャット・電話)
2. 会計ソフトとの連携方式を事前確認する
給与計算の結果は会計ソフトに仕訳として取り込む必要があります。外注先がfreee・マネーフォワード・弥生・奉行などの対応CSV形式で納品できるかを必ず確認してください。
独自フォーマットでしか納品できない場合、手動での変換作業が発生し、外注のメリットが半減します。CSV納品による会計ソフト連携の詳細も参考になります。
3. セキュリティ体制とISMS・Pマーク取得状況を確認する
給与データには従業員の氏名・住所・口座番号・マイナンバーなど、最高レベルの個人情報が含まれます。以下を確認しましょう。
- ISMS(ISO 27001)またはPマークの取得状況
- NDA(秘密保持契約)の締結
- データの保管方法・暗号化・アクセスログの管理
- マイナンバーの取扱い規程
個人情報保護法では、委託元にも委託先の監督責任が課せられます。契約書にセキュリティ条項を明記し、少なくとも年1回は管理体制を確認する仕組みを作ってください。
4. 法改正対応のスピードと実績を聞く
給与計算は所得税法・社会保険関連法令の改正に毎年影響を受けます。「前回の法改正にどのくらいのリードタイムで対応したか」を具体的に聞くことで、外注先の対応力が見えます。
直近では2024年の定額減税、2026年10月の社会保険適用拡大など、計算ロジックに直結する改正が続いています。法改正対応のタイミングで追加費用が発生するかも確認ポイントです。
5. 切替時の引継ぎスケジュールを具体化する
外注先の切替(内製→外注、他社→自社)で最もリスクが高いのは最初の2〜3ヶ月です。以下のスケジュールを事前に擦り合わせてください。
- 1ヶ月目: 現行の給与規程・就業規則・手当体系の共有、テスト計算の実施
- 2ヶ月目: 並行稼働(社内計算と外注計算の結果を照合)
- 3ヶ月目: 外注に完全移行、社内担当者は検証に専念
並行稼働期間を設けることで、計算結果の食い違いを本番前に洗い出せます。初期費用は基本料金の1〜2ヶ月分が目安です。
外注の費用対効果を最大化する3つの実践テクニック
相場を把握し外注先を選定した後は、「同じ品質をより安く」する工夫が効いてきます。
繁閑差を活かしたスポット外注の活用
給与計算の業務量は年間を通じて均一ではありません。年末調整(11〜1月)と算定基礎届(7月)の時期に業務量が急増します。
通年契約ではなく、繁忙期だけスポットで外注するアプローチも有効です。年末調整だけ外注すれば、通年契約の半額以下で繁忙期の負荷を分散できます。「普段は社内のソフトで処理し、年末調整だけプロに任せる」パターンは、10〜30名規模の企業で特に効果的です。
勤怠データの整理で入力工数を下げる
外注費用の多くは「入力工数」に比例します。勤怠データがバラバラの形式(紙のタイムカード、Excelの自由書式、勤怠アプリのエクスポート等)で渡されると、外注先側で整理する工数が発生し、その分の費用が上乗せされます。
勤怠管理クラウド(KING OF TIME、ジョブカン勤怠など)を導入し、統一フォーマットのCSVで勤怠データを出力できるようにするだけで、外注費用が10〜20%下がるケースがあります。
会計ソフト対応CSV納品でインポート自動化する
外注先から「給与計算結果のCSVファイル」を受け取り、自社の会計ソフトにインポートする工程を自動化することで、社内側の後処理コストも削減できます。
freee・マネーフォワード・弥生などの主要会計ソフトはCSVインポートに対応しているため、外注先にソフト指定のフォーマットで納品してもらえば、仕訳入力の手間がゼロになります。この連携が機能すれば、給与計算の外注費用は純粋な「計算代行費」だけで済み、社内の追加作業コストを最小化できます。
よくある質問(FAQ)
Q: 給与計算の外注費用は経費として計上できますか?
外注費(業務委託費)として全額損金算入が可能です。正社員を雇用した場合の社会保険料の会社負担分(給与の15〜16%)も不要になるため、トータルの税負担も軽くなるケースが多いです。
Q: 従業員10名以下の小規模企業でも外注する意味はありますか?
給与計算の工数が月数時間でも、法改正対応や年末調整の繁忙期負担を考えると外注のメリットがあります。月額5,000〜20,000円で始められるため、担当者が経理と兼任しているなら検討の余地があります。
Q: 途中で外注先を変更する場合のコストや手間は?
初期設定費用(基本料の1〜2ヶ月分が目安)と移行期間(1〜3ヶ月)が必要です。データ移行の手間を最小化するため、標準CSV形式で納品してくれる外注先を選んでおくと切替コストを抑えられます。
Q: 給与計算の外注と給与計算ソフトの導入、どちらがよいですか?
社内に給与計算の知識がある担当者がいるならソフト導入(月額数千円〜)、いないなら外注(月額数万円〜)が現実的です。「入力・チェックだけBPO、計算・支払は社内ソフト」というハイブリッドも有効です。
Q: 外注先に渡す個人情報のセキュリティは大丈夫ですか?
委託先のPマーク・ISMS取得状況、NDA締結、アクセスログ管理体制を確認してください。個人情報保護法上、委託元にも監督責任があるため、少なくとも年1回は委託先の管理体制を確認することが望ましいです。
まとめ
給与計算の外注費用は、従業員50名規模で**月額4〜6万円(給与計算のみ)**が相場です。社労士・税理士・代行会社・データ入力BPOの4つの選択肢があり、自社の規模と「どこまで任せたいか」によって最適な依頼先は変わります。
損益分岐の観点では、専任担当者を1名雇用するコスト(年間480〜530万円)に対して、50名規模の外注費用は年間48〜72万円と約7分の1。兼務の場合でも、担当者の時間を解放することで月次決算の早期化や属人化リスクの解消につながります。
外注を検討する際は、まず「月次給与計算のデータ入力だけ外注する」スモールスタートで品質を確認し、問題がなければ年末調整や社保手続きに範囲を広げていくのが確実な進め方です。BCP(事業継続計画)の観点からも、給与支払いが特定の担当者に依存する体制はリスクが高く、外注による冗長化は経営上の合理的な判断です。
Dr.Wallet BPOでは、給与計算に必要な勤怠データの集計・整理・CSV納品に対応しています。「フル外注は不安だが、入力作業だけでも手放したい」という企業は、まず部分外注から始めてみてください。