経理部門の人材不足は、多くの企業が直面している構造的な課題です。「求人を出しても応募が来ない」「ベテランが退職して後任が見つからない」「育成に時間がかかりすぎる」。こうした声は企業規模を問わず聞かれます。
2026年は特に注意が必要な年です。10月にインボイス制度の経過措置が完全終了し、免税事業者からの仕入税額控除が全額不可になります。この制度変更による実務負荷の増大が、すでに人手不足の経理部門にさらなる圧力をかけることになります。
この記事では、経理人材不足の構造的な原因を整理したうえで、2026年に打つべき4つの具体的な対策を実務レベルで解説します。
経理人材不足の実態|2026年に深刻化する3つの背景
背景1: 経理担当者の過半数が「人手不足」を実感
Bill Oneの調査によると、経理担当者の50.1%が人手不足を実感しており、そのうち約9割が「深刻」と回答しています。これは経理部門特有の問題ではなく、日本全体の労働力不足を反映していますが、経理は専門性の高さゆえに代替人材の確保が一層難しい領域です。
背景2: 2026年10月インボイス経過措置終了で実務負荷が急増
2023年10月に始まったインボイス制度では、免税事業者からの仕入についても80%の仕入税額控除が認められる経過措置がありました。しかし、2026年10月にこの措置が完全終了し、控除率が**0%**になります。
これにより、経理部門には以下の追加業務が発生します。
- 取引先ごとのインボイス登録番号の再確認
- 未登録事業者との取引条件の見直し
- 仕入税額控除の計算ロジック変更
- 仕訳処理の修正(免税事業者分の税額控除不可の反映)
背景3: 労働人口減少と経理専門人材の需給ギャップ
日本の生産年齢人口は毎年50〜60万人のペースで減少しています。その中でも経理は「専門性が求められるが、採用市場での評価が営業やエンジニアに比べて低い」という構造的な問題を抱えています。
経理経験者の有効求人倍率は上昇傾向にあり、特に簿記2級以上を保持し、月次決算を一人で回せるレベルの人材は争奪戦の様相を呈しています。
経理人材不足が企業経営に与える5つのリスク
人手不足を放置した場合、以下のリスクが顕在化します。
リスク1: ミス・漏れの増加による信用失墜
限られた人数で大量の処理をこなすと、ダブルチェックが形骸化し、仕訳ミスや支払い漏れが発生しやすくなります。取引先への支払い遅延は、取引関係の毀損に直結します。
リスク2: 業務の属人化と引き継ぎ困難
「この処理は○○さんにしかわからない」という状態が常態化すると、担当者の休職・退職が業務停止に直結します。特に中小企業の経理では、特定の1名に業務知識が集中しているケースが少なくありません。
リスク3: 月次決算の遅延と経営判断スピードの低下
経理の人手が足りないと、月次決算のクロージングが遅れます。数字が確定しなければ、経営層は正確なデータに基づく意思決定ができません。「先月の実績がまだ出ていない」という状態が毎月続くのは、企業の競争力に関わる問題です。
リスク4: 残業常態化によるコスト増と離職の悪循環
人手不足を残業で補おうとすると、残業代のコスト増に加え、担当者の疲弊と離職が進みます。離職すればさらに人手不足が深刻化するという悪循環に陥ります。
リスク5: チェック機能の低下による不正行為リスク
経理部門には「権限分離」の原則があります。請求書の入力者と承認者を分ける、支払い実行者と記帳者を分けるといった相互牽制です。しかし、1〜2名体制では権限分離が物理的に困難であり、不正行為のリスクが高まります。
経理業務の「コア/ノンコア分解」で見える解決の糸口
人材不足の対策を考える前に、まず経理業務を**コア業務(判断系)とノンコア業務(処理系)**に分解してみましょう。これが対策の方向性を決めるフレームワークになります。
コア業務とノンコア業務の定義
| 区分 | 業務内容 | 必要なスキル |
|---|---|---|
| コア業務(判断系) | 月次決算の分析、予実管理、資金繰り判断、税務判断、監査対応、経営レポーティング | 会計知識+経営判断力 |
| ノンコア業務(処理系) | 請求書入力、レシート入力、仕訳入力、入金消込、銀行明細取込、ファイリング | ルール遵守+正確性 |
ノンコア業務の割合を測定する方法
まず1週間、経理担当者に業務時間のログを取ってもらいます。「請求書入力: 3時間」「仕訳入力: 2時間」「月次分析: 1時間」のように記録し、コア/ノンコアに分類します。
多くの企業で測定すると、**経理業務の50〜60%がノンコア(処理系)**に分類されます。言い換えれば、経理担当者の労働時間の半分以上が「判断を必要としない定型処理」に費やされているということです。
ノンコアからBPO化する段階的アプローチ
人材不足の解消は、ノンコア業務を外部に切り出すことで実現可能です。すべてを一度に外注する必要はなく、以下の順序で段階的に進めます。
Step 1: 請求書入力・レシート入力を外注(最もルールが明確で切り出しやすい) Step 2: 仕訳入力・入金消込を外注(会計ソフトのCSV連携で引き渡し) Step 3: 月次決算補助の外注(証憑整理、残高確認、勘定明細作成)
Step 1だけでも、経理担当者の月間10〜20時間が解放されます。その時間をコア業務(分析・判断・改善)に振り向けることで、経理部門の付加価値が向上します。
対策1: 採用・育成の見直し
ポテンシャル採用の設計
経理経験者の採用が難しいのであれば、**ポテンシャル採用(未経験者の育成前提の採用)**も選択肢に入ります。簿記3級の資格取得を入社後にサポートし、OJTで実務スキルを身につけるパスを設計します。
ただし、育成には6ヶ月〜1年のリードタイムがかかります。即効性を求める場合は、BPO導入で処理力を確保しつつ、並行して育成を進めるのが現実的です。
リモートワーク・フレックス導入で採用母集団を広げる
経理はPCと会計ソフトがあれば場所を選ばない業務です。リモートワークやフレックスタイムを導入することで、通勤圏外の人材や育児・介護中の人材にもアプローチできます。
社内ジョブローテーションによる多能工化
「経理が1名しかいない」リスクを軽減するために、営業事務や総務の担当者に経理業務の基礎を教えるクロストレーニングも有効です。完全な代替は難しくても、「緊急時に最低限の処理ができる人が他にもいる」という状態を作るだけでリスクは大幅に低減します。
対策2: DXツール・AI活用で定型業務を自動化
経費精算・請求書処理のSaaS化
紙の領収書を手入力している企業はまだ少なくありません。TOKIUMやマネーフォワードなどの経費精算SaaSを導入すれば、OCRによる自動読取り、ワークフローによる承認自動化、会計ソフトへの自動連携が実現します。
RPA・AI-OCRによる入力作業の自動化
定型的なデータ入力作業は、RPAやAI-OCRで自動化できる領域です。銀行明細のダウンロード、請求書PDFからの金額読取り、仕訳の自動生成などが対象になります。
ただし、RPA導入には初期設計に数ヶ月、運用保守に継続的な工数がかかります。月間の処理量が数百件以上でないと、導入コストに見合わないケースもあります。
AIエージェントの最新動向
2026年現在、経理分野のAIエージェントは「入力の自動化」から「判断の補助」へと進化しつつあります。たとえば、以下のような処理がAIで対応可能になってきています。
- 請求書のフォーマット自動判定と項目抽出
- 過去の仕訳パターンに基づく勘定科目の自動提案
- 入金消込の候補マッチング(名寄せ込み)
- 異常値検知(二重計上や金額の急増アラート)
ただし、AIはあくまで「提案」であり、最終的な判断と承認は人間が行う必要があります。AIが得意な定型処理はAIに任せ、人間は例外処理と判断業務に集中するという役割分担が、人材不足を乗り越えるための基本設計です。
経理DXの最新動向については、2026年の経理DXガイドで詳しく解説しています。
対策3: 経理BPOで「人を増やさず処理力を上げる」
人材不足に対して「人を採用する」以外のアプローチとして、BPO(Business Process Outsourcing)があります。業務プロセスごと外部の専門チームに委託する方式です。
BPOに向く業務
| 業務 | BPO適性 | 理由 |
|---|---|---|
| 請求書入力 | 高い | ルールが明確、定型処理 |
| レシート入力 | 高い | 大量処理、パターン化しやすい |
| 仕訳入力 | 中〜高 | 科目ルールの共有が必要 |
| 入金消込 | 中 | 名寄せルールの引き継ぎが必要 |
| 月次決算補助 | 中 | 証憑整理・残高確認は外注可能 |
| 予実分析 | 低い | 経営判断を伴うためコア業務 |
派遣 vs BPO vs フリーランスのコスト比較
| 項目 | 経理派遣 | BPO | 経理フリーランス |
|---|---|---|---|
| コスト体系 | 時給2,000〜3,000円 | 業務単位(25円/件〜) | 時給3,000〜5,000円 |
| 月額目安(100時間稼働) | 20〜30万円 | 3〜10万円 | 30〜50万円 |
| スケーラビリティ | 低い(人の追加が必要) | 高い(処理量に応じて変動) | 低い |
| 初期コスト | 採用手数料 | 業務設計費(無料〜数万円) | なし |
| 品質管理 | 自社管理 | BPO側で組織的に実施 | 個人に依存 |
| 対応速度 | 即日〜1週間 | 2〜4週間(初回セットアップ) | 即日〜1週間 |
BPOの最大の特徴は従量課金であることです。処理した件数分だけ費用が発生するため、閑散期には費用が下がり、繁忙期には処理量を増やせます。固定費として人件費を抱える派遣・フリーランスとは、コスト構造が根本的に異なります。
「1人経理」リスクからの脱却ステップ
中小企業に多い「1人経理」体制は、その担当者が退職・休職した瞬間に経理機能が停止するという重大なリスクを抱えています。
脱却ステップ1: 業務フローと処理ルールを文書化する(属人化の解消が先決) 脱却ステップ2: 処理系業務(請求書入力・レシート入力)をBPOに移管する 脱却ステップ3: 経理担当者は判断系業務に集中しつつ、BPOとの連携で冗長性を確保する
これにより、経理担当者が不在でも処理系業務はBPOが継続対応でき、緊急時の業務停止リスクを大幅に軽減できます。
1人経理体制のリスクについては、1人経理の限界で詳しく解説しています。また、請求書入力の外注費用については請求書入力代行の費用相場を参考にしてください。
対策4: マニュアル化と業務標準化で属人化を防ぐ
BPOやDXツールの導入は即効性のある対策ですが、その前提として業務の標準化が欠かせません。
業務フロー図の作成と更新ルール
経理業務の全体像を業務フロー図として可視化します。「誰が」「何を」「いつ」「どの順番で」処理するかを1枚の図にまとめることで、新任者の理解速度が上がり、属人化の防止にもなります。
業務フロー図は「作って終わり」ではなく、四半期に1回の更新ルールを設けてください。制度変更や業務手順の変更が反映されていないマニュアルは、あるだけ混乱を招きます。
チェックリスト・テンプレートの整備
月次決算のクロージングチェックリスト、請求書処理のルールテンプレート、仕訳パターン表など、定型的な処理のチェックリストを整備します。これにより、経験の浅い担当者でも一定の品質で処理を行えるようになります。
引き継ぎが1週間で完了する体制
業務マニュアルとチェックリストが整備されていれば、新任者への引き継ぎ期間を大幅に短縮できます。「前任が3ヶ月かけて教えないと回らない」という状態は、マニュアル不備の証拠です。「1週間で基本業務が回る」を目標に標準化を進めましょう。
2026年に打つべき手は「分解」と「分担」
経理人材不足の解消は、「経理の人を増やす」ことだけが答えではありません。
- 業務を分解する: コア(判断系)とノンコア(処理系)に切り分ける
- ノンコアを分担する: BPO・AI・RPAで処理系業務を外部・自動化する
- コアに集中する: 解放された時間を分析・判断・経営への提言に充てる
- 標準化で属人化を防ぐ: マニュアル・チェックリストの整備で引き継ぎリスクを低減する
特に2026年10月のインボイス経過措置終了は、経理部門の業務量をさらに押し上げる要因です。制度変更の前に処理系業務の外部移管を完了しておくことで、制度対応の追加負荷を既存の人員で吸収できる体制を作れます。
まずは経理業務の「コア/ノンコア分解」から始めてみてください。ノンコア業務の切り出しは、Dr.Wallet BPOのような業務単位のBPOサービスで月額30,000円から始められます。2026年10月のインボイス制度変更への対応も含め、早めの準備が経理部門の安定運営につながります。