経理の人手不足を解消する3つのアプローチ

経理担当者の50%以上が人手不足を実感。採用強化・SaaS導入・BPO活用の3つの解決策を費用・即効性・リスクの観点で比較し、自社に合った組み合わせ方を具体的に解説します。

「経理の求人を3か月出しているのに、書類選考を通過する応募者がゼロ」。中小企業の経営者や管理部門の責任者から、こうした声が増えています。

Sansan株式会社が請求書関連業務に携わる経理担当者1,000名を対象に実施した調査では、経理部門で人手不足を感じている担当者は50.1%に達し、そのうち約9割が「深刻な状況」と回答しました(Sansan「経理の人手不足に関する実態調査」2024年)。人手不足は一部の企業だけの問題ではなく、経理という職種そのものが抱える構造的な課題です。

この記事では、経理の人手不足を引き起こしている原因を整理したうえで、「採用強化」「SaaS導入」「BPO活用」の3つのアプローチを費用・即効性・リスクの観点から比較します。自社の状況に合った組み合わせ方がわかるよう、段階的なロードマップも提示します。

50.1%
経理部門で人手不足を感じている担当者の割合(うち約9割が「深刻」と回答)
Sansan「経理の人手不足に関する実態調査」2024年

経理人材市場の現状――なぜ採れないのか

経理の人手不足を語るうえで、まず押さえておくべきは採用市場の構造です。

求人倍率の「見かけ」と「実態」のギャップ

一般事務職の有効求人倍率は0.34倍(2026年2月時点、厚生労働省「一般職業紹介状況」)。数字だけ見ると求職者が多い「買い手市場」に見えます。しかし経理は一般事務と同じカテゴリに括られているだけで、実態は大きく異なります。

経理職の有効求人倍率は0.59〜0.68倍とされ、全職種平均の1.25倍を下回ります。ところが即戦力の経験者に限ると、実質的な競争率は2〜4倍以上に跳ね上がります(CrossLink「経理採用が難しい5つの原因」)。簿記の知識だけでなく、自社の業務フローに合ったクラウド会計ソフトの操作経験やインボイス制度への対応経験を求めると、該当する人材はさらに絞られます。

生産年齢人口の減少が追い打ちをかける

日本の生産年齢人口(15〜64歳)は毎年約20万人以上のペースで減り続けています。2026年1月時点で7,353万人。この構造的な減少は景気の良し悪しに関係なく進行するため、「景気が落ち着けば採れるようになる」という楽観は通用しません。

大企業との待遇差

大企業と中小企業の賃金格差は月額約6.1万円、年間にして約74万円に上ります。経理経験者は転職時に「完全週休2日制」「残業月20時間以下」「転勤なし」といったワークライフバランスを重視する傾向が強く、待遇面で大企業に劣る中小企業は採用競争で不利な立場に置かれます。

人手不足を引き起こす3つの構造的原因

経理の人手不足は単純に「人が足りない」だけの問題ではありません。3つの原因が重なり合い、慢性的な人材不足を生んでいます。

原因1: 間接部門への投資優先度が低い

経理は直接売上を生まない「間接部門」として扱われがちです。営業やエンジニアの採用が優先され、経理の増員は「今は回っているから」と後回しにされる。この判断が常態化すると、一人の担当者に業務が集中する一人経理体制が固定化し、退職や休職で一気に業務が止まるリスクを抱え込みます。

原因2: 制度対応による業務量の膨張

インボイス制度(2023年10月開始)と改正電子帳簿保存法への対応は、経理部門に新たな業務負荷を加えました。適格請求書の確認、電子取引データの保存要件への対応、既存の業務フローの見直し。従来の人員でこなせる業務量を超えているにもかかわらず、増員が追いついていない企業が大半です。

原因3: 属人化による「辞められない・入れない」の悪循環

経理業務が特定の担当者に属人化すると、その担当者は休めない(引き継ぎ先がいない)、新しい人を入れても教育に時間が割けない(自分の業務で手一杯)、結果として担当者が疲弊して退職する、という悪循環に陥ります。全産業の離職率は15.4%に上昇しており(厚生労働省「雇用動向調査」)、経理も例外ではありません。

年間 約74万円
大企業と中小企業の経理職の賃金格差(月額約6.1万円)
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」

解決策①:採用を強化する

最もオーソドックスなアプローチですが、正攻法だからこそ押さえるべきポイントがあります。

採用にかかるリアルなコスト

経理担当者を1名採用する場合の初年度コストを積み上げます。

費目金額
給与(経理職平均年収 約473万円)473万円
社会保険料(会社負担 約15%)71万円
採用費(エージェント経由)約103万円
教育・OJTコスト約20万円
初年度合計約667万円

※ 給与は厚生労働省「賃金構造基本統計調査」・doda平均年収データを参考。採用費はdoda「中途採用の採用単価」を参考にエージェント経由の想定値。

初年度667万円、2年目以降も人件費だけで年間約544万円が継続的に発生します。

採用成功のための実務ポイント

中小企業が経理採用で大企業と戦うには、待遇以外の訴求が必要です。

求人票の具体化: 「経理業務全般」ではなく、使用する会計ソフト名(freee、マネーフォワード、弥生)、月間処理件数、残業時間の実績値を明記する。経理経験者は業務内容の解像度が高い求人に反応します。

条件の柔軟化: 「経理経験3年以上・簿記2級必須」という要件を「簿記3級以上・実務経験不問」に広げるだけで、応募者の母集団は大幅に広がります。未経験者を育成する場合、キャリアアップ助成金(最大80万円)の活用も検討できます。

選考スピード: 応募から3日以内に面接を設定すると、優秀な候補者が他社に流れるリスクを下げられます。経理の転職市場は求職者優位が続いており、選考に2週間以上かかると辞退率が跳ね上がります。

採用アプローチの限界

採用は「人が定着してはじめて効果が出る」手段であり、求人掲載から戦力化まで最短でも3〜6か月はかかります。その間の業務負荷を誰がカバーするのかという問題は、採用だけでは解決しません。

解決策②:SaaS(クラウドツール)を導入する

人を増やすのではなく、テクノロジーで業務量そのものを減らすアプローチです。

SaaS導入で削減できる業務

業務導入前の作業SaaS導入後削減効果
仕訳入力紙の証憑を見て手入力AI-OCRで自動読み取り→自動仕訳60〜80%削減
経費精算Excelで申請→紙の領収書を添付スマホ撮影→自動申請→承認70%以上削減
銀行明細取り込みネットバンキングからCSVダウンロード→手動照合API連携で自動取り込み→自動消込50〜70%削減
請求書受領郵送・メール・FAXを手作業で転記クラウドで一元受領→データ化60%以上削減
月次レポートExcelで集計→グラフ作成ダッシュボードで自動生成作成時間を1/3に

SaaS導入企業の約4割が月間30時間以上の工数削減を実感しており、約8割が「業務効率が改善した」と回答しています(プラリタウン「SaaS導入が有効な7つの場面」調査)。

主要な経理SaaSのカテゴリと費用目安

カテゴリ代表的なサービス月額目安
クラウド会計freee、マネーフォワードクラウド、弥生オンライン2,000〜40,000円
経費精算TOKIUM経費精算、楽楽精算、ジョブカン経費精算30,000〜100,000円
請求書受領TOKIUMインボイス、Bill One、バクラク請求書10,000〜100,000円
入金消込V-ONEクラウド、Remota30,000〜100,000円

※ 料金は利用規模・プランにより変動。従業員30〜100名規模の目安。

SaaS導入の注意点

SaaSは「導入すれば終わり」ではありません。

既存業務フローの整理が先: ツールを入れても業務フローがアナログのままだと効果は半減します。まず現行の業務を棚卸しし、「何をデジタル化するか」を明確にしてから選定に入る必要があります。

移行期間の負荷: データ移行やマスタ設定に1〜3か月かかります。その間は旧フローと新フローが並走するため、一時的に負荷が増えます。人手不足の状態でこの移行期間を乗り切れるかが課題です。

人の手が残る領域: 例外処理、イレギュラーな取引先への対応、税務判断はSaaSでは自動化しきれません。定型業務を自動化して浮いた時間を、こうした判断業務に充てる設計が必要です。

解決策③:BPO(アウトソーシング)を活用する

採用もSaaS導入も間に合わない、あるいは両方やったうえでまだ手が回らない業務がある。そんなときに即効性を発揮するのがBPO(Business Process Outsourcing)です。

BPOに向いている経理業務

外注で効果が大きいのは、「量が多い」「ルールが明確」「判断を伴わない」の3条件を満たす業務です。

業務BPO適性月額コスト目安
請求書データ入力非常に高い1件25円〜(月500件で約13,000円)
入金消込(照合)高い月30,000〜80,000円
経費精算チェック高い月20,000〜50,000円
記帳代行高い月30,000〜100,000円
給与計算中程度月30,000〜80,000円
月次決算サポート中程度月50,000〜150,000円

BPOの2つのタイプ

経理BPOには「パッケージ型」と「従量課金型」があり、企業規模や課題に応じて選び分ける必要があります。

比較項目パッケージ型BPO従量課金型BPO
月額目安20万〜50万円3万〜15万円
契約単位経理業務一括1業務単位で選択可
最低契約期間6か月〜1年なし or 1か月
向いている企業経理部門ごと外注したい中堅〜大企業まず1業務から試したい中小企業
導入までの期間1〜2か月1〜2週間

中小企業が「まず試してみたい」という場合は、1業務だけ外注できる従量課金型から始めるのがリスクを抑えたアプローチです。

BPO活用の注意点

丸投げは失敗する: 自社の経理ルール(勘定科目の使い分け、承認フロー、例外処理のルール)を整理してから外注しないと、品質が不安定になります。最初に「業務指示書」を作成する手間は発生しますが、それ自体が属人化を防ぐマニュアル資産になります。

セキュリティの確認: 請求書や入金データには取引先名・金額・口座情報が含まれます。NDA締結、アクセス権限管理、データの暗号化通信、保存期間経過後の削除対応を契約前に確認しましょう。

3つのアプローチを一覧で比較する

採用・SaaS・BPOの3つを、導入を検討するうえで重要な6つの軸で比較します。

比較軸採用強化SaaS導入BPO活用
初期コスト高い(採用費 約103万円)中程度(導入・設定費 10〜50万円)低い(従量課金なら初期費用なし)
ランニングコスト高い(年間 約544万円〜)低〜中(月額 数千〜10万円)低〜中(月額 3〜15万円)
即効性低い(戦力化まで3〜6か月)中程度(効果実感まで1〜3か月)高い(1〜2週間で稼働開始)
対応できる業務範囲広い(判断業務も含む)中程度(定型業務の自動化)中程度(定型業務の代行)
スケーラビリティ低い(増員に時間がかかる)高い(利用量に応じて拡張)高い(件数に応じて拡張)
社内ノウハウの蓄積高い(人材が残る)中程度(ツール活用スキルが残る)低〜中(マニュアルが残る)
年間 約544万円 vs 約36〜180万円
経理1名の追加採用コスト(2年目以降)と、SaaS+BPO併用の年間コスト幅
doda 平均年収ランキング・各社サービス料金より算出

どのアプローチが「正解」かは、企業の規模・業務量・成長フェーズによって異なります。重要なのは、3つを排他的に捉えるのではなく、組み合わせて使うという発想です。

段階的に組み合わせるロードマップ

「いきなり全部やる」のは現実的ではありません。以下の4ステップで段階的に取り組むと、リスクを抑えながら人手不足を解消できます。

ステップ1(1〜2週間):業務の棚卸しと優先順位づけ

まず現在の経理業務をすべて洗い出し、以下の4象限に分類します。

  • A: 量が多い × 定型的 → BPO or SaaSで最優先に対処(例:請求書入力、経費精算チェック)
  • B: 量が多い × 判断が必要 → SaaSで補助+社内人材で対応(例:仕訳入力、月次決算)
  • C: 量が少ない × 定型的 → SaaSで自動化(例:銀行明細取り込み)
  • D: 量が少ない × 判断が必要 → 社内に残す(例:資金繰り管理、税務対応)

ステップ2(1か月目):BPOでボトルネックを即解消

ステップ1で「A」に分類された業務のうち、最も負荷が大きいものを1つ選んでBPOに外注します。請求書のデータ入力は、多くの企業にとって最初の外注対象になりやすい業務です。

従量課金型のBPOなら初期費用なしで始められるため、「試してダメなら戻す」判断も容易です。この段階で月10〜20時間の工数を浮かせることを目標にします。

ステップ3(2〜3か月目):SaaSで定型業務を自動化

BPOで生まれた時間の余裕を使って、SaaSの導入・設定を進めます。クラウド会計や経費精算システムの導入は、データ移行やマスタ設定を含めて1〜3か月が目安です。

SaaS導入後は「手作業で入力していた仕訳」「紙ベースだった経費申請」が自動化され、月間30時間以上の工数削減が見込めます。

ステップ4(6か月目〜):必要に応じて採用に踏み切る

BPOとSaaSで定型業務の負荷を下げたうえで、「管理会計の導入」「FP&A機能の構築」「経営層への月次報告の高度化」など、判断を伴う上流業務を担う人材が必要であれば、このタイミングで採用に動きます。

採用時のメリットは明確です。BPOとSaaSで定型業務が整理されているため、「あなたに求めるのは判断業務です」と候補者に提示できる。単純作業を延々とこなすポジションよりも、経理経験者にとって魅力的な求人になります。

コスト比較シミュレーション:従業員50名・月間請求書500件の企業

具体的な企業像で3つのアプローチのコストを試算します。

前提条件

  • 従業員50名、年商8億円の製造業
  • 月間請求書受領: 500件
  • 月間経費精算: 80件
  • 入金消込: 月80件
  • 現在の経理体制: 1.5名(正社員1名+パート1名の週3勤務)

パターン別の年間コスト

アプローチ年間コストカバーできる業務
正社員1名追加採用約667万円(初年度)全業務(ただし戦力化まで3〜6か月)
SaaS導入のみ約60〜120万円仕訳自動化、経費精算、銀行連携
BPO活用のみ約36〜100万円請求書入力、入金消込、記帳代行
SaaS+BPO併用約96〜180万円定型業務のほぼ全域をカバー

採用とBPOの詳細なコスト比較は別記事で損益分岐シミュレーション付きで解説しています。

SaaS+BPO併用は、正社員1名の追加採用と比較して年間約490〜570万円のコスト削減になります。もちろんSaaSとBPOは正社員の「完全な代替」ではありませんが、定型業務に限れば十分な戦力です。浮いたコストを既存メンバーの待遇改善やスキルアップ研修に振り向ければ、離職防止にもつながります。

人手不足は「仕組み」で解消できる

経理の人手不足は、「良い人がいない」という採用の問題だけではありません。業務量が多すぎる、属人化している、テクノロジーの活用が遅れている。これらの構造的な問題を放置したまま採用だけに頼ると、仮に採用できても同じ問題が繰り返されます。

まずはBPOで目の前のボトルネックを解消し、SaaSで業務基盤を整え、そのうえで本当に必要な人材を採用する。この順番で取り組めば、コストを抑えながら経理部門の体制を着実に強化できます。

「請求書の入力だけでも外に出せたら楽になるのに」。そう感じているなら、1業務だけの部分外注から始めてみてください。従量課金で月額数千円から試せる選択肢は、採用が決まるまでの「つなぎ」としても、長期的な業務設計の一部としても機能します。

よくある質問

経理の人手不足は今後さらに悪化しますか?
生産年齢人口は毎年約20万人以上減少しており、経理のような専門職の採用競争は年々激しくなっています。インボイス制度や電子帳簿保存法への対応で業務量も増えているため、何も手を打たなければ状況は悪化する一方です。SaaS導入やBPO活用など、採用に頼らない解決策を早めに検討することが重要です。
3つのアプローチのうち、どれから始めるべきですか?
まずはSaaS導入で既存メンバーの作業負荷を下げるのが低リスクです。それでも手が回らない業務がある場合にBPOで部分外注し、組織として経理の体制を強化したい段階で採用に踏み切る、という順番が合理的です。
採用・SaaS・BPOを併用している企業はありますか?
むしろ併用が主流です。SaaSで仕訳入力や経費精算を効率化し、請求書のデータ入力や入金消込はBPOに外注、社内の経理担当者は月次決算の分析や経営報告に集中する、という三層構造を採る企業が増えています。
SaaS導入でどのくらい工数を削減できますか?
導入する業務領域にもよりますが、経費精算システムやクラウド会計の導入企業では月間30時間以上の削減を実感しているケースが約4割に上ります。特に仕訳の自動起票や銀行明細の自動取り込みは即効性が高い領域です。
BPOに外注すると自社に経理ノウハウが残らなくなりませんか?
判断を伴う業務(月次決算の分析、資金繰り管理、税務対応など)を社内に残し、定型的な入力・照合業務だけを外注すれば、ノウハウの流出は起こりません。むしろ外注のために業務マニュアルを整備する過程で、属人化していた知識が形式知化されるメリットがあります。
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